笑顔の下の本音をさらし、心の奥底の情念をむき出しにし、意のままにならぬ世間をぼやき、たいしたことも無い日常をご報告するブログです。

オーストラリアの青い空
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プロフィール


おーあお

Author:おーあお
1990年より在豪、6年シドニーに住んだ後、メルボルンへ。
嫁は英国人、息子はオージー。そして私は日本人。国籍もバラバラなら思想もバラバラ、何もかもバラバラなまとまりのない家族です。
唯一の共通点は、猫好き♥


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ワーホリの覚醒-英語学校22

2012/01/12 17:51|連載小説ワーホリの覚醒1TB:0CM:1
「キャーッ」
幸が悲鳴を上げる。
「何するんだ!」
貫斗が立ち上がった。
「分からないのか?喧嘩売ってんだよぉー!」
アスオは今度はカトリを貫斗の顔に投げつけた。
「表に出ろ!」
アスオは続けて叫んだ。
「ま、待て、喧嘩をしたらみなさんに迷惑じゃないか―」
貫斗は顔を青くして言った。
彼は喧嘩になったら負けるのを知っている。
この頃アスオが柔道の猛者である事はクラスでよく知られていた。
「だから、外へ出ろって言ってんだよ。デクのぼーが!」
アスオはヤル気満々だった。
彼は背は低いががっちりとして重戦車を彷彿させた、逆に貫斗は背は高いがひょろっとしてマッチ棒のようだった。
喧嘩は誰も止めなかった。
みんなの顔つきは、明らかにアスオを応援していた。
「そんなマッチ棒燃やしてしまえ!」
とその表情が語っていた。
どうやら皆、貫斗の見下した態度には気付いていないようで気付いていたらしい。
「不快だ。帰る!」
貫斗は逃げるようにその場を後にした。
下痢便にまみれた幸はほったらかしだった。
「お前なんか、日本人社会で生きていけないようにしてやる!」
ドアを出る直前に振り返った貫斗は捨てゼリフをはいた。
「ガハハハハハハハハ」
アスオはドアを指差し腹を抱えて爆笑する。
そして笑いをこらえながら
「お前の男カッコ良すぎだぜ。ヒィーヒィー」
とうなだれる幸に言ってむせた。
彼女はそれには答えず、ナプキンで顔を拭きながら貫斗の後を追って店を出た。

パーティーが終わった後、パラマタロードとグリーブポイントロードの角のバス停までみんなでミランダを送っていった。
彼女の右手にはみんなで少しずつ出して贈った赤い薔薇の花束が握られている。
「みんな有難う」
彼女は一人一人と握手し頬にキスをした。
挨拶でするキスの場合大抵は頬に唇の触れないエアキスだが、この場合彼女はしっかりと一人一人の頬に唇を押し付けた。
最後がアスオだった。
アスオの顔は明らかに何かを求めていた。
「アスオ、英語が上手くなったご褒美よ…」
彼女はアスオを抱き寄せ唇を合わせた。
そしてみんなの前で濃厚に舌を絡めた。
「先生…俺、一生忘れないよ…」
アスオの目からポロリと涙がこぼれた。
ミランダは、前に止まったバスに乗り手を振りながら去っていった。

アスオは大通りの角に立ったまま余韻に浸っている。
目の焦点が定まっていなかった。
しかも、頼まれもしないのに両腕を振り回して交通整理を始めた。
「いいの?」
路男磨の隣にいた望詩が彼の袖を引いた。
「ああ」
路男磨は星空を見上げた。
今夜はよく晴れている。
英語は上手くならなかったが、楽しかった英語学校とも今日でお別れである。
「ねえ、路男磨君、これから二人で飲みに行かない?」
袖をつまんだまま望詩が言った。
「いいよ」
路男磨は快く返事した。
実は路男磨も同じ事を考えていた。
二人は並んでチャイナタウンに向かって歩き始めた。
「ねえ、腕組んでいい?」
望詩は下を向き恥ずかしそうに言った。
その仕草が可愛いと感じた。
そう感じるほどに彼女とは親しくなっている。
路男磨が肘を上げると、その隙間にすっと望詩の細い腕が入ってきた。
彼女の体温が腕から伝わってきてほろ酔いに心地よかった。
「あたし…腕組んで歩くの初めてなの…」
赤らんだ顔が嬉しそうに微笑んだ。
それが酒のせいだけでないのは路男磨にはわかっている。
彼も彼女を以前ほどブスとは思っていなかった。
「ブスが段々美人に見えてくる―と職場結婚したオッサンが言っていたが、その通りだ」
とぼそぼそと独り言を呟いた。
「何?今何か言った?」
「いや…」
ブロードウェイを歩く二人の横をバスはいくらでも通っていくが、バスに乗る気にはならなかった。
望詩と話していると何故か話題が絶えず、意識していないせいか心からリラックスできた。
交差点で信号が赤になって二人の歩みは止まった。
ふと低い位置に設置されたビルの看板を見ると、気取った美人モデルの白い歯が一本黒く塗られていた。
それを見て二人は声を合わせて笑う。
相手が望詩でなかったらこんなにも笑う事は無いだろう。

その二人の横に赤い小さな車が止まった。
中には二人の若い女性が乗っている。
「あんな楽しそうな顔、私には見せた事無い…」
助手席に乗る女が呟いた。
その翠色の目には嫉妬の炎が燃えたぎっていた。

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ワーホリの覚醒―英語学校21

2012/01/03 23:58|連載小説ワーホリの覚醒1TB:0CM:0
その夜、お別れ会は、ミランダの祝賀会ともなりグリーブポイントロードのタイレストランで行われた。
ここはクラスメイトのタイ人ワンターニがアルバイトをしている所で路男磨も以前望詩と一緒に来た事がある。

アスオは夜には既に立ち直り、表向きは普段のように陽気に振舞っていた。
相変わらず徹底して英語しか話さない。
この2ヶ月で彼の英語はメキメキと上達し、NZで一年間英語学校に行った貫斗よりも話すだけなら遙かに上手くなっていた。

あれ以来路男磨は彼を違った目で見ている。
実は路男磨はあの財布も彼が意図的に抜いた―と思っている。
勘ぐり過ぎかもしれないが、どっちにしろ彼に大きな借りが残っている事だけは確かである。
その彼の顔も今日で一応見納めであるが、路男磨は彼との付き合いを止める気はなく、相手が嫌がっても付きまとってやろうと思っていた。
だがその為にはまず英語を何とかしなければならない。
アスオは「英語でなら付き合ってやる」と態度で示している。

タイレストランではアスオは当たり前のようにミランダの隣に座った。
彼が彼女と一番話し慣れているということもあるが、彼以外は誰も英語で長い会話が出来ないので、彼女を退屈させない為にもそれは当然といえた。

「国毎に固まっちゃ駄目よ!」
ワンターニが言い、席は隣同士が別国籍になるように割り振りされた。
路男磨の両隣には台湾人の若い女の子と中国人の青年が座る事になった。
何れも今月入校組で英語は路男磨よりも下手だった。
どちらともクラス以外で話した事は殆ど無いが、それはそれで都合がよかった。
どのくらい豪にいる?どこに住んでいる?趣味は?とかおきまりの挨拶英語で結構繋ぐ事が出来るからだ。
パーティーはたどたどしい英語にも関わらず和やかに進んでいるが、長く繋ぎ合わされたテーブルの端から耳障りな日本語も聞こえてきた。
力崎貫斗と姉小路幸だ。
貫斗は自分の隣の者を無視して向かいに座っている幸と話しているのだ。

彼と幸が数週間前から付き合っているのは周知の事でここ数日は学校の休み時間もべったりだった。
彼らは二人でいるか日本人グループと一緒にいるかで、路男磨はこの二人が英語を話しているのを授業以外では聞いたことが無い。
従って二人の英語はまったくと言っていいほど上達していなかった。
路男磨も偉そうな事は言えないがこの二人よりはましで少しは上達している。
特にヒアリングが随分と向上しテレビのニュースも大分わかるようになっていた。
そのせいか来てすぐの頃は「ペラペラ」に聞こえた貫斗の英語が今では「ヘタクソ」と思うようになっている。

酒が進むに連れて耳障りな日本語も大きくなっていった。
内容がわかるだけに路男磨ら日本人にはその声は一段と大きく聞こえた。

「この間さ、総領事と商工会議所の偉いさんと一緒に屋鉄に行ったよ」
「屋鉄ってあのミシュランの三ツ星レストラン?」
幸が弾んだ声で言う。
「そう、一ヶ月前から予約してさ、一週間前にリコンファームしなきゃいけないんだ。有名だからね」
貫斗が自慢げに言う。
彼は例の乱交パーティーから派生させ、若いワーホリや学生を大企業の駐在員や領事館の役人に紹介して人脈を広げていた。
彼はそれらの権力者と知り合いになって自分に箔をつけ、就職に有利にしようとしているようだった。
彼は話が上手く見た目も良いが、自分に利をなさない人間は無視するか見下すかしていた。
特にアジアからの留学生は露骨に蔑視し、彼らの事を陰で「サル」と呼んでいるのを路男磨は聞いたことがある。

パーティーは苦手な英語を強要されているだけにどうしても会話がいま一つ弾まない。
それを気にしてミランダが授業の延長のように一人一人に話題を振っていたが、例の二人はそれも無視して二人だけで盛り上がっていた。
彼女の隣のアスオはヤケクソ気味に酒を煽っている。
顔は既に真っ赤で元々丸い鼻の穴がビー玉を二つ並べたように膨らんでいた。
そのアスオが突然ダンとテーブルを叩いて立ち上がった。
「星三つかタイヤ三つか知らねーが、うるせーんだよぉ!」
天井の割れるような声で例の二人に向かって叫んだ。
ホールが一瞬シーンとなり、全ての者の視線がアスオに集中する。
彼は右手にグリーンカレーのたっぷり入ったカトリを掴んだ。
そして何食わぬ顔でテーブルの反対側に歩いて行きそこにいる幸の隣に立った。
そこでテーブルの皆にニコリと微笑みかけると、右手のカトリを幸の頭の上に持っていきクルリと逆さまにした。
ぼたぼたとグリーンカレーがめかしこんだ幸の髪の毛と顔をどろどろに塗らしていく。
その姿はまるで下痢便を頭から被ったようだった。
「―――」
彼女はショックに唖然とし口をパクパクさせている。

アスオはその彼女の耳元に口を寄せ―
「素敵だよ」
とそっと囁いた。

ワーホリの覚醒-英語学校20

2011/12/29 17:50|連載小説ワーホリの覚醒1TB:0CM:2
「みなさーん。今まで食べた中で珍しい物を教えてくださーい」
ミランダのロンパーな声が狭い教室の壁にこだまする。
「フロッグ、フロッグ」
タイ人のおばさんワンターニが元気よく言った。
「俺、サル食ったぜ!」
インドネシアの若者が誇らしげに言う。
「犬も猫も旨かったですよ!」
中国人だ。
「スネーク」
「幼虫」
「スパイダー」
「タイガータイガー!!」
日本人以外は競うように今まで食ったゲテモンを自慢していた。
なんとも微笑ましい光景だ。

食べ物の話をするのには理由がある。
実は今日で、路男磨、アスオ、望詩を含む7人がこのクラスから去る。
そのお別れ会として今夜みんなでレストランに行く事になっていた。


「フン、ガキ共が…」
アスオはそんな彼らを鼻で笑っていた。
「俺は幼虫もトラも食いたくねえ。食いたいのは…」
彼は赤いミニスカートを穿いたミランダの足を嘗め回すように見ていた。
「フフフ、今夜だ、今夜決めてやる」
アスオはポケットの中に手を突っ込んでその存在を確かめた。

「先生、今日で先生とお別れなんて俺には耐えられない」
「私もよアスオ…」
「ミランダ、結婚しよう」
「その言葉を待っていたの。もうあなた無しでは生きていけないわ!」
「グフ グフフフフフフフ」


〈何を握っているんだ?〉
路男磨は隣で怪しげな動きをしているアスオのこぶしに視線を向けた。
銀色のものが目に入った。
〈なるほど…〉
その物体とギラついた視線の先から彼が何を考えているか鏡に映したように読み取る事ができた。

「ところで― 先生みなさんにビッグニュースがありまーす」
と言ったミランダはチラッとアスオの方を見た。
〈そうか…はっきりさせるんだな〉
アスオは心をの準備をした。告白の瞬間の熱いキッス―。

「先生今月で学校辞めて…イギリスに帰って結婚しまーす!」
彼女は心から嬉しそうな声でアナウンスした。
その幸福の表情からみんなは彼女のウェディング姿を連想した。
「ワァー先生おめでとう。おめでとう…」
小さな教室は拍手で沸き返った。

路男磨も子供のように拍手した―が…隣から流れてくる真っ黒な妖気には充分気付いている。
〈アスオ…聞いてなかったのか…?〉
彼は下を向いて凝固していた。
その顔には蝋人形のように感情が無い。
やがてその目に涙が湧き溢れ、ポトリポトリと膝上の拳を濡らしはじめた。
彼だけが太陽系の外にいた。
やがてクラスがそのブラックホールに気付く。
教室がシーンと通夜のように静かになり、湧き上がった空気がそこに吸い込まれていく。
〈アスオ、顔を上げて笑うのだ。大人になって笑うのだ。〉
路男磨は心の中で彼の涙に語りかけた。

「アスオ…ソーリー」
ミランダがアスオを慰めるように言った。
「ウッウッウウウ……」
その声に触発され、アスオの涙は濁流と化し獣のような嗚咽が口から洩れた。
肩が激しく上下し腿のジーンズからも雫が垂れている―。

暫くして彼は泣きやんだ。
涙を袖でゴシゴシと拭い、ガバッと椅子を蹴って立ち上がった。
涙と鼻水に汚れたすさまじい顔がミランダに迫る。
〈そうだアスオ、一言、コングラチュレーションと言うのだ〉
アスオは教室の中央で止まり、ミランダの目を赤くなった目で食い入るように見た。
そして鼻をすすると天井を見上げて目を瞑った。
また涙がツーッと閉じられた両目から流れる。
彼は大きく息を吸い込んだ。
「おれ以外の男なんか、みんな、みんな死んでしまえ~!!!」
轟音が教室の壁にこだました。
彼がクラスで初めて漏らした日本語だった。
両手からポトリと4枚のコンドームが落ちた。

ワーホリの覚醒―英語学校19

2011/12/24 18:34|連載小説ワーホリの覚醒1TB:0CM:2
「でもあいつ、歌上手かったわね…」
路男磨の別れ際の歌「Everything About  You」が頭の中を回って彼女はなかなか寝付けなかった。
彼女は彼と始めて会った時の事を思い出していた。
実はシドニー大の芝生の上で仮面をつけて会ったのが初めてではない。
一番最初は彼がセントラルの駅で車椅子の障害者の降車を手伝っている時だった。
その時「英語も出来ないのに…」と感心もし、その端正な横顔にドキリとしたのを覚えている。
その後路男磨は気付かなかったが彼女は電車やバスの中で彼を数度見かけていた。
その都度声をかけようかと思ったがどうしてもきっかけがつかめなかった。
初めて話したのが仮面をつけてあったシドニー大の芝生の上。
近くで見る貴公子然とした彼の容貌に思わず声が上ずりそうになった。
そして一緒に写真を撮ったブルーマウンテン。
実はあれは偶然ではない。
あの前日にアスオからそのことを聞いて急遽予定を変更し友人のアッシュリーに頼んで一緒に行ってもらったのだった。
その時、もっと話したかったのだが、彼と一緒にいた望詩に遠慮してそれほど話せなかった。
他の二人が彼女に冷たいのに対し、彼のみ優しい言葉をかけていたのを見てさらに心を惹かれたが、二人の間に漂う空気に穏やかならぬものを感じたのも事実である。

その彼がへんてこな歌を残して自分の元から去った…。
「あんなキチガイもうどーでもいいじゃない」
とは不思議と思わない。
麗蘭には色んな男から毎日のように声がかかってくる。
中には医学部で医者の息子、おまけにハンサムと言うのもいるが、彼らには何も特別なものを感じなかった。
だが…その特別なものを何故かは分からないがワーホリで精神病の路男磨には感じるのである。


翌朝は風も止み、雲の合間からシャワーのように光が洩れていた。
丘を下り公園の角にさしかかった時、ふと昨日の現場が見たくなった。
夜通しの風で芝生の上には木の枝葉が散らかっている。
その先の例の三角地の方を見ると昨日彼らが争った辺りに黒い物体が3つ落ちていた。
内二つは覆面だ。
「馬鹿な事したものね…」
麗蘭は雨に濡れた覆面を拾った。
もう一つは―財布のようだった。
それも拾って中を開いた―
「あっ―」

彼女は黒い覆面はフェリー乗り場のゴミ箱に捨て、黒い財布は自分の手の中に握った。
朝の光を浴びて、クレモーン岬の向こうから玩具のようなフェリーがこちらに泳いでくる。
麗蘭はこの朝の童話のような景色が好きだった。
彼女は高校は北地区であったが、大学は西地区にある。
本来なら西地区に引っ越した方が便利なのだが、彼女はむしろ喜んだ。
「フェリーで通学なんて、何て素敵なんでしょう!」
毎朝潮風に吹かれながら、彼女はシドニーの街に「おはよう」と声をかけるのである。

そのフェリーが静かに近付いてきてすぐ目の前に接岸された。
朝は殆どが乗船客で下船客は殆どいない。
その少ない人数の中に彼女は、予想通りの人物を認めた。

「また会ったわね」
彼の顔は頬の辺りが昨夜よりも痛々しく紫に腫れていた。
「ちょっと探し物があってね」
彼はそのまま麗蘭の前を歩き過ぎようとする。
「あなたの探してる物、これでしょ?」
麗蘭は黒い財布を差し出した。

二人はオープンになっているアッパーデッキ後部に立っていた。
彼女の長い髪が風に靡いて路男磨の頬をくすぐった。
「嘘つき…」
スクリューの吐く白泡が遠くまで伸びている。
「束縛したくなかったのさ―」
彼は遠ざかっていく岬の白い灯台を見ながら言った。
「これからどうするの?」
「日本人のいない所に行こうと思っている―」
「どのくらい?」
「さあ…」
麗蘭は自分の赤い財布をショルダーバッグから取り出し、中を開いて路男磨に見せた。
そこには路男磨の財布の中にあるものと同じものがあった。
「待つわ―」
彼女の右手が彼の左手をそっと包んだ。
フェリーはオペラハウスの手前を左に旋回し滑るように波止場に向かっている。
「長くなるかも知れない―」
路男磨は左手に力を入れた。
「いいわ。但し…クリスマスは一人にしないでね…」
エンジンの音が小さくなり船は人波に溢れるサーキュラキーに接岸した。


モスマンベイ
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ワーホリの覚醒―英語学校18

2011/12/16 17:42|連載小説ワーホリの覚醒1TB:0CM:2
「アスオとは?」
「覚えてる?ブルーマウンテンで私と一緒だった子。アッシュリーって言うんだけどあの子の彼氏シドニー大の柔道部なのよ。
そこにアスオは毎日練習に行ってる。彼背は低いけど誰も敵わないんだって」
「そうか、あの重そうなリュックの中身は柔道着だったのか?」
「なんだと思ってたの?」
「強姦七つ道具かと思ってたよ。手錠とかさ…」
そういえばアスオの耳はギョーザであった。
どおりで絞首がうまいはずである。

「ところでさ、レイプマンって間違いなんだろ?」
「そうね。所謂和製英語ってやつかしら、正しくはレイピスト。
あまり口にしたくない単語だけど…」
「そうか…」
路男磨の頭にアスオの馬鹿面が浮かんだ。
だが奴は―馬鹿ではない…。

「この前さ、何が起こったの?」
麗蘭は最も聞きたかった事に触れた。
路男磨は「フーッ」と大きく深呼吸した後、自分の持病である、トゥーレットシンドロームとバイポーラーディスオーダーに似た症状について語った。
「要するに疲れると何を言うか何をするか分からないって事?」
「そう。酷い時はジキルとハイドさ。この前みたいにね」
「やっぱり…病気だったんだ…」
麗蘭は哀れむような表情で路男磨の顔を見上げた。
「そう、一生治らない病気さ」
路男磨はまた紅茶を口に運んだ。
今度はそれほど凍みなかった。
「お医者には相談したの?」
「いや、親は必死に俺が普通だと思い込もうとし、俺にもそう信じるように諭した。つまり世間に隠したかったのさ、俺のために自分達のために…」
「でも…じゃ一生その病気に悩まされて生きていくの?」
「ああ、仕方ない―と今までは思っていた―」
「じゃあ、今からは?」
麗蘭の声が明るくなった。
「利用するのさ。この病気を俺の武器にする!」
そう宣言すると路男磨は勢いよく立ち上がった。
麗蘭は唖然として彼を見つめている。

部屋の奥には例の白いドレスがフープにかかっている。
路男磨はその方を遠くを見るような目で眺めた。
彼女もその方を見た。
「あなたが来てくれたからいい演技ができたわ。次も見に来てくれる?」
路男磨はそれには答えず曖昧な微笑で横を向いた。
「いや、もう二度と見に行かないよ」
あっさりそう言うと彼は部屋のドアを開けた。
「じゃ帰るわ。世話になった。達者でな」
と軽く言って部屋を出る。
「ちょ、ちょっと待ってよ」
麗蘭はその後を慌てて追った。
路男磨はスタスタと階段を降りている。
家は土足だから靴は脱いでいない。
彼はそのまま玄関を出た。
「ちょっと待って!次はいつ会えるの?」
彼女は玄関先で追いつき、彼の肩に手をかけた。
「もう二度と会わないよ。終わりだ」
路男磨は振り向くと、ロボットのように感情の無い声で言い、麗蘭の手を肩から埃でも落とすように払い除けた。
「ちょっと…また発病?」
「いや、しらふさ」
路男磨はポーカーフェイスのまま彼女に背を向けゲートの方に向かう。
「……」
麗蘭は一瞬首をかしげた後裸足で彼を追った。
「何で?理由を聞かせて―」
ゲートを出たところで路男磨は振り向いた。
冷たい風が二人の間を吹きぬける。

「♫Hate everything about you, everything about you, everything about …YOU!♫」

路男磨は当時*大ヒット中のアグリーキッドジョーの曲を真似て歌い、最後のYOUに特に力を入れて麗蘭の顔を人差し指で突き刺すように指した。
そしてくるりと兵隊のように回れ右すると今度は敵陣に突撃するかのごとく全力疾走で坂道を下りフェリー乗り場に向かっていった。
「やっぱり…発病してる…」
麗蘭は小さくなっていく狂人の姿を呆然と見つめていた。
コンクリートの冷たさが裸足の指先から伝わってくるまでにかなりの時間がかかった。


*Everything About You‐Ugly Kid Joe 実は1992年ヒット。面白い歌ですよ。
http://www.youtube.com/watch?v=-sRYp9Q9w_c
Lyrics
http://www.youtube.com/watch?v=iQbBgSEEntU

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